質問集

学校現場は、日々様々な問題に直面しています。ここでは、当センターの会員がこれまでに実際に受けた相談の中から代表的な相談の内容をふまえ、問題に対応する際の基本的な考え方をQ&Aの形で示しています。こちらで紹介できなかった問題を含め、具体的な事案をふまえた対応についてご相談を希望される方は、当センターの弁護士紹介事業をご利用ください。

保護者等への対応

Q
1-1
ある日の放課後、本校の生徒の保護者が来校し、「今日、うちの子どもが同じクラスの生徒からいじめを受けた。詳しい事情を聴きたい。」とのことでした。教頭と担任が応接室で対応しましたが、その際、保護者から「今日の話は録音させてもらいます。」との発言がありました。どのように対応すればよいでしょうか。
Q
1-2
ある日の夕方17時頃、本校の生徒の保護者から学校に電話がありました。その保護者によれば「今日、うちの子どもが同じクラスの生徒からいじめを受けた。今はまだ仕事中であるが、詳しい事情を聴きたいので、仕事を終えた後20時頃に学校に行きます。」とのことでした。本校の業務時間は原則として17時までなのですが、どのように対応すればよいでしょうか。
Q
1-3
先日、本校の生徒の保護者から学校に対して「うちの子どもが、部活動中に体罰を受けた。」との訴えがありました。本校では、保護者からの訴えを受けて、関係者からの聴取を行うなど必要と思われる調査を行いましたが、体罰を確認することはできませんでした。保護者には既に調査結果を口頭で伝えていますが、「納得がいかない」とのことで何度も電話をかけてきて、その度に再度の調査を求められて困っています。どのように対応すればよいでしょうか。
Q
1-4
本日、本校の生徒の祖父を名乗る人物が来校し、「孫が同じクラスの児童からいじめられているようだ。何があったのか、詳しい事情を聴かせてもらいたい。」との話がありました。たしかに、該当の生徒と同じクラスの生徒との間でSNS上のトラブルがあり、学校において事実関係を確認の上で当時者双方に指導を行った事実はあるのですが、学校としてどのように対応すればよいでしょうか。

いじめ

Q
2-1
ある日の放課後、本校のある生徒の保護者から「今日、学校で、子どもが同級生から『丸顔だね。』と言われた。このことで子どもは大変傷ついている。これは『いじめ』にあたるので、『丸顔だね。』と言った生徒を厳しく指導してもらいたい。」との電話がありました。どのように対応すればよいでしょうか。
Q
2-2
昨日、本校の中学2年生の男子生徒Aの保護者から学校に対して、「息子が、同級生5名から、半年の間に約10万円の現金を脅し取られていることが分かった。脅し取られた現金は、同級生5名が使ってしまったようである。」との訴えがありました。この訴えを受けて、本日、指摘された同級生5名に対して事実を確認したところ、主犯とみられる1名は「Aが、自主的に持ってきたもので、脅したりはしていない」と述べて事実を否定したものの、残りの4名は、大筋で事実を認めました。今後、学校としてどのように対応すればよいでしょうか。
Q
2-3
昨日、本校の小学5年生の女子生徒Aの保護者から学校に対して、「娘が、同じクラスの生徒から悪口を言われて、学校に行きたくないと言っている。」「悪口を言った生徒の住所と電話番号を教えろ。慰謝料を請求する。」「学校にも責任がある。」との訴えが長時間にわたってありました。担任に事情を確認したところ、Aと同じクラスの生徒BとCが、給食の時間にAのことをからかった事実があったようですが、詳細は不明とのことでした。今後、学校としてどのように対応すべきでしょうか。
Q
2-4
この度、本校の生徒Aの保護者から次のような話しがありました。いじめ防止対策推進法によれば、「重大事態」が認められる場合、それに対処するための措置をとる必要があるとのことですが、以下の事例はそもそも「重大事態」に該当するのでしょうか。
(1)Aが同じクラスの生徒3名から現金1万円を恐喝されたとの申し出がありました。担任が個別に事情を聞いたところ、3名のうち1名は「Aが、嫌々ながらお金を出した」と話していますが、他の2人は「Aが自分から『奢ってあげる』と言ってきたので、奢ってもらった」と話しています。
(2)Aは、2学期開始から3週間、全く学校に来ていません。Aの保護者から「1学期の間、同じクラスの複数の生徒からいじめを受けており、学校に行けなくなった」との訴えがありました。担任が、Aと親しいと思われる複数の生徒から話を聞きましたが、いじめと疑われるような事実は出てきませんでした。

不登校

Q
3-1
本校のある生徒が2学期の初めから10日間続けて欠席しています。保護者によれば「本人が体調不良を訴えているので休ませている」とのことです。本人の状態については「医師を受診したが、明確な診断は無い」とのことです。今後、どのように対応すれば良いでしょうか。
Q
3-2
Q3-1の事案で、該当の生徒について支援策を策定しましたが、今後、福祉、医療等の関係機関と連携しつつ対応を検討すべき場面があるかもしれません。このような場合に、学校が保有する本人の情報を関係機関と共有することは許されるでしょうか。
Q
3-3
本校では、中学2年生のある生徒が2学期の開始当初から欠席となり、その後2か月以上にわたって欠席しています。この度、生徒の保護者から次のような申し入れがありました。どのように対応すれば良いでしょうか。
(1)フリースクールに通っているので、これを「出席」として扱ってほしい。
(2)自宅で行っているインターネットを利用した学習について、「出席」として扱ってほしい。
(3)同じ学級内の他の生徒との関係が悪く通学が困難となっているので、別のクラスに移りたい。
(4)同じ学級の他の生徒によるいじめが不登校の原因なので、いじめの加害者を別のクラスに移してほしい。
(5)別の学校に転校したい。

学校事故

Q
4-1
この度、本校の教室内で、次のような事故が発生しました。
給食後の休み時間に、担任が午後の授業の準備のために職員室にいたところ、教室内で生徒Aが振り回していたジャンパーの金具の部分が、教室内にいた生徒Xの右目に当たったようです。他の生徒からの連絡を受けた担任は直ちにXを保健室に連れて行き、その後、養護教諭が付き添って眼科の医院を受診しました。その後、医師の判断で、市内にある病院の眼科を受診することになりました。
(1)現時点で学校として行っておくべきことがあれば、教えて下さい。
(2)学校(市)、教員、加害児童、加害児童の保護者といった関係者が負う可能性のある責任について教えて下さい。なお、本校は公立学校ですが、私立学校の場合と異なる点があれば、あわせて教えて下さい。
Q
4-2
Q4-1の事案において、先日、被害児童であるXの保護者から学校に対して、次のような申出がありました。学校としてどのように対応すればよいでしょうか。
(1)加害児童であるAの住所、電話番号を教えてほしい。
(2)学校において、Aの保護者と話し合う場を設定してほしい。話し合いの場には、学校が立ち会ってほしい。
Q
4-3
Q4-1の事案において、保護者の話では、残念ながらXの視力低下は免れないとのことでした。このような状況を受けて、Xの保護者としては、弁護士に相談し、しかるべき相手にしかるべき金額を請求することを考えているとのことでした。ところで、治療費等はスポーツ振興センターの支払によってまかなわれると思うのですが、センターから支払われる金銭を超える損害賠償の請求が認められることはあるのでしょうか。また、今後、Xの保護者から損害賠償請求の話が出た場合、どのように対応すれば良いでしょうか。

懲戒・体罰

Q
5-1
本日の夕方、本校の生徒Aの保護者から「子どもが、今日は給食を食べられなかったといったと言っている。説明してほしい。」との電話がありました。担任から話を聞いたところ、Aは普段から、授業中の立ち歩きや私語が目立つ生徒であり、4時限目の授業でのAの悪ふざけが度を過ぎていたため、教室の後方に起立させ、その後、給食の時間になってもそのまま起立させたが、給食の時間の途中で席に戻ってよいと伝え、その後午後の授業の準備のために職員室に行ったとのことです。Aが給食を食べたかどうかは不明とのことです。学校はどのように対応すれば良いでしょうか。
Q
5-2
本日、本校の生徒Aの保護者から、「子どもが、体育の授業中に担当の教員Bから頻繁に怒鳴られるので、怖くて学校に行きたくないと言っている。」とのことでした。
・この電話を受けて、学校はどのように対応すればよいでしょうか。
・その後、Aは学校に登校することが難しくなりました。Aの保護者は「慰謝料を請求する」と言っています。どのように対応すればよいでしょうか。
Q
5-3
私はある私立高校の校長です。本校は全寮制となっていますが、先日、本校の複数の生徒が寮内で飲酒するという出来事がありました。学内で検討した結果、他の生徒に与える影響を考慮して、飲酒した生徒に対して自主退学を勧告することを検討していますが、注意すべき点があれば教えてください。

校則

Q
6-1
本日、2学期から本校に転入してくる予定の生徒の保護者から電話があり、「1学期まで通っていた学校では制服は無く、今後も同様にしたいと考えていますが、ダメでしょうか。」との問い合わせがありました。私から「校則で定められていることでもあり、他の生徒は全員制服を着用しているのでご理解ください。」と回答したところ、「そもそも、制服の着用を義務付けることは生徒の人権を侵害するものではないか。」との発言がありました。どのように対応すればよいでしょうか。
Q
6-2
本校では、校則で「髪を染めて登校してはならない」ことを定めています。本日、2学期が始まったのですが、ある生徒が髪を染めて登校してきました。今日まで、この生徒が髪を染めて登校したことは一度もありませんでした。この生徒について、次の対応をとることに問題はあるでしょうか。
(1)この生徒を帰宅させ、地毛の色に戻してから登校するように指導する。
(2)この生徒の了解を得た上で、髪に黒色のスプレーを吹き付ける。
(3)地毛の色に戻すように指導した上で、色を戻すまでの間、別室で指導する。

個人情報・プライバシー

Q
7-1
本校では例年、生徒間及び保護者間の連絡の円滑化の観点から、新入生についてクラス名簿を作成し、新入生全員に配付しています。クラス名簿には、生徒の氏名、住所、電話番号(自宅又は携帯)、メールアドレスを掲載することとしており、入学当初に所定の用紙を配付し、これらの情報を記載して提出するようお願いしています。この度、新入生の保護者から、「クラス名簿の作成は個人情報保護の観点から問題があるのではないか」との指摘がありました。クラス名簿を作成することに法的な問題はありますか。また、各生徒から情報を提供してもらう際や名簿作成後の注意点があれば、あわせて教えて下さい。
Q
7-2
本校では、本校の様子を広く知ってもらうべく、ホームページ上で学校行事の様子等を紹介しています。ところで先日、PTAの役員の1人から「ホームページ上で学校行事の様子を紹介することは良いことだと思いますが、生徒の写真を掲載することは問題ではないでしょうか。」との意見がありました。生徒が写った写真を学校のホームページに掲載することに法的な問題はありますか。
Q
7-3
本校では、例年卒業アルバムを作成しており、末尾にその年の卒業生の氏名と住所を記載しています。アルバムの作成は業者に依頼しており、その際、学校が保管している学校行事の写真及び生徒の氏名、住所を業者に提供しています。卒業アルバムに住所、氏名を掲載することや、学校行事で撮影された写真を掲載することについては、事前に保護者から了解を得ていますが、その他に注意すべきことがあれば教えて下さい。

児童生徒の両親の離婚・別居

Q
8-1
本校に在籍する生徒の母親から次のような申し入れがありました。どのように対応すれば良いでしょうか。
(1)先日、夫と離婚し、自分が子どもの親権者となり子どもを監護することとなった。離婚後は結婚前の姓を名乗ることとした。今後、子どもについても姓を変更する予定であるが、変更後も学校内では旧姓の使用を認めてほしい。
(2)現在、夫と別居しており、近日中に離婚予定である。離婚後は旧姓に戻る予定であるので、別居を機会に旧姓を使用することとし、実際に旧姓を使用している。子どもについても、自分と同居しており、今後も自分が育てていくので、自分と同じ姓の使用を認めてほしい。
Q
8-2
(1)本日、本校に在籍する生徒の父親から、「個人情報保護法に基づいて、学校が把握している子どもの現住所を教えてほしい」との申し入れがありました。この申し入れに対して、どのように対応すればよいでしょうか。
(2)父親からの申出を受けて校内で確認したところ、1週間前にこの生徒の母親から「父親からDV(ドメスティック・バイオレンス)を受けており、3か月前に父親と別居して母親と子どもの2人で暮らしている。現在は転居先から通学している。」との話があったことがわかりました。父親からの開示要請に対してどのように対応すれば良いでしょうか。

学校運営と著作権

Q
9-1
私は、中学校で社会の授業を担当している者です。
(1)私が自宅でDVDに録画したテレビ番組を、私が担当するクラスの授業で視聴したいと考えていますが、法律上の問題はありますか。また、私が授業を担当していない同学年の他のクラスの授業で視聴する場合はどうでしょうか。
(2)私が担当するクラスの授業で、市販されている問題集のうち一部を生徒の人数分コピーして配付しようと思いますが、法律上の問題はありますか。
Q
9-2
先日、ある企業から本校宛てに、イラスト利用料に関する請求書が届きました。本校で作成・発行した学校だよりに掲載されているイラストについて、この企業が権利を持つイラストを無断で使用されたとして利用料を請求するものでした。学校だよりを作成した職員に事情を確認したところ、「インターネット検索サイトで『学校 秋の行事 イラスト 無料』と検索して表示された複数の画像の中から1つを選んで利用した。利用に当たって特に権利者の確認等は行っていない。」とのことでした。その後、請求書に記載された企業のウェブサイトを見たところ、たしかに該当するイラストを含む複数のイラストが掲載され、利用を希望する場合には利用料が発生することが明記されていました。本件で、本校は利用料を支払わなければならないのでしょうか。

近隣住民とのトラブル

Q
10-1
先日、本校のグラウンドの向かい側に住んでいる方から電話があり、「運動会の練習がうるさい。連日の騒音で体調不良となってしまった。すぐに止めさせてほしい。」との苦情がありました。その際、「担当の教員に伝え、ご迷惑とならないように配慮します。」と答え、担当教員にもその旨を伝えたのですが、翌日に再び同じ方から電話があり、「昨日あれほど言ったのに何も変わっていない。運動会自体を行わないでほしい。これ以上騒音が続くようであれば慰謝料を請求する。」とのことでした。今後、どのように対応すればよいでしょうか。
Q
10-2
先月、本校の正門から徒歩1分ほどの場所にコンビニエンスストアが開店したのですが、そのコンビニエンスストアの店長から本校に対して苦情の電話がありました。店長によると、本校の複数の生徒が、学校まで保護者に車で送ってもらい、コンビニエンスストアの駐車場に車を停め、そこで車を下りているようです。店長は、今後も同じような状況が続くのであれば、営業妨害を理由に学校の設置者に対して損害賠償を請求すると述べています。この苦情に対して、どのように対応すればよいでしょうか。なお、本校では、学校敷地内にスペースが確保できないことや、多数の生徒が集中して登校する朝の時間帯の安全確保の観点から、車での送迎は禁止しています。

回答集

保護者等への対応

Q
1-1
ある日の放課後、本校の生徒の保護者が来校し、「今日、うちの子どもが同じクラスの生徒からいじめを受けた。詳しい事情を聴きたい。」とのことでした。教頭と担任が応接室で対応しましたが、その際、保護者から「今日の話は録音させてもらいます。」との発言がありました。どのように対応すればよいでしょうか。
A

① 学校内での録音を許可するか否かは、学校内の撮影と同様、基本的に校長の裁量にゆだねられています。したがって、校長の判断で録音を断ったとしても、法令上は特に問題ありません。
② しかしながら、保護者との面談にあたって頑なに録音を拒否すると、かえって保護者に不信感を抱かせることになる場合もあります。また、仮に学校が録音を断ったとしても、秘密で録音される可能性もあり、このような行為を禁止することは事実上不可能でしょう。学校としては、保護者からの申出の有無に関わらず、録音されているとの前提で対応するのが無難です。
③ 保護者から録音の申出があった場合、録音を行うことによる弊害(例えば、発言の一部が独り歩きする可能性等にも配慮しなければならず、個人的な見解等を述べることはできなくなる)を説明するなどして、録音を控えてもらうように求めることは可能であり、法的に全く問題ありませんが、それでも保護者が録音を希望する場合、希望に沿って録音を認めることも1つの選択肢です。
④ なお、特に保護者からの録音の希望に応じる場合、学校側でも必ず録音をとっておき、発言の一部が独り歩きするようなことが無いよう注意することが大切です。また、保護者が録音を行っているか否か、保護者の了解があるか否かに関わらず、学校側で面談の内容を録音すること自体は、法的に問題になることはありませんが、保護者の了解を得ていない場合の録音の取扱いについては十分な配慮が必要ですので、弁護士に相談するなど慎重に検討してください。

Q
1-2
ある日の夕方17時頃、本校の生徒の保護者から学校に電話がありました。その保護者によれば「今日、うちの子どもが同じクラスの生徒からいじめを受けた。今はまだ仕事中であるが、詳しい事情を聴きたいので、仕事を終えた後20時頃に学校に行きます。」とのことでした。本校の業務時間は原則として17時までなのですが、どのように対応すればよいでしょうか。
A

① 学校は、児童生徒及びその保護者に対して、在学関係上の義務として、学校内で起きた出来事に関して、必要に応じて説明を行う義務があると考えられます。また、この出来事が「いじめ」の場合、学校は、事実関係を調査確認する義務があります(いじめ防止対策推進法第23条第2項)。
② 一方、企業等と同様、学校の教職員にもプライベートの時間は当然認められます。したがって、上記のような在学関係上の義務やいじめ防止対策推進法における義務についても、特に緊急を要する事情が無ければ、基本的に業務時間内に対応すれば足ります。
③ 本件のような事案では、まずは、該当の生徒の状況を確認すべきでしょう。その生徒の状況から緊急性がある場合(例えば、「死にたい」と言っているとか、自殺未遂を試みたといった場合)には、時間外であってもできる限り対応すべきと考えられますが、そのような緊急性が認められない場合には、翌日以降の対応としても格別問題は無いと考えられます。

Q
1-3
先日、本校の生徒の保護者から学校に対して「うちの子どもが、部活動中に体罰を受けた。」との訴えがありました。本校では、保護者からの訴えを受けて、関係者からの聴取を行うなど必要と思われる調査を行いましたが、体罰を確認することはできませんでした。保護者には既に調査結果を口頭で伝えていますが、「納得がいかない」とのことで何度も電話をかけてきて、その度に再度の調査を求められて困っています。どのように対応すればよいでしょうか。
A

① 本件への対応として、まずは、学校が行った調査が十分なものであったか否か、あらためて確認、検証するのが良いでしょう。検証の視点としては、調査を担当した者が適切であったか、調査の対象(事情聴取やアンケートの対象者など)や方法(聴取が個別に行われたか集団で行われたか、アンケートが記名式であったか無記名式であったかなど)が適切であったか、といったものが考えられます。検証にあたっては、学校内での出来事に関する調査の知見を有する弁護士の意見を聞くことも考えられます。
② 確認、検証の結果、それまでの調査に問題が無いと考えられる場合、あらためて、学校が行った調査について具体的に(調査担当者や調査の方法などを含め)説明することが考えられますが、それでも納得が得られない場合、再調査を実施するか否かを検討し、その結果を伝えることになります。なお、本件のような「体罰」の有無が問題となる事案では、再調査に関して法令等の定めはありませんが、「いじめ」の有無が問題となる事案で「重大事態」(いじめ防止対策推進法第28条)が生じている場合や、学校内で発生した事故で重大な結果(死亡事故及び治療に要する期間が30日以上の負傷や疾病を伴う場合などの重篤な事故・「学校事故対応に関する指針」参照)が生じた場合については、調査のための組織(調査委員会)を設置して調査を行う必要があるので注意が必要です。
③ 本件では、再調査をしないことを決めた場合、その結果及び理由について丁寧に説明したとしても、同様の電話が何度もかかってくることも想定されます。そのような場合には、再調査を行わないという結論と理由、学校が行った調査の内容について可能な範囲で具体的に記載した書面を交付(あるいは送付)した上で、以後は「先日の書面に記載したとおりです。」とだけ回答するという対応も考えられます。ただし、書面に記載する内容や表現については慎重に検討すべきであり、できることなら交付(あるいは送付)の前に弁護士に相談することをお勧めします。

Q
1-4
本日、本校の生徒の祖父を名乗る人物が来校し、「孫が同じクラスの児童からいじめられているようだ。何があったのか、詳しい事情を聴かせてもらいたい。」との話がありました。たしかに、該当の生徒と同じクラスの生徒との間でSNS上のトラブルがあり、学校において事実関係を確認の上で当時者双方に指導を行った事実はあるのですが、学校としてどのように対応すればよいでしょうか。
A

① 学校は、児童生徒及びその保護者に対して、在学関係上の義務として、学校内で起きた出来事に関して、必要に応じて説明を行う義務があると考えられます。また、この出来事が「いじめ」の場合、学校は、事実関係を調査確認する義務があります(いじめ防止対策推進法第23条第2項)。
② 学校が上記のような説明義務を負う相手は、基本的に児童生徒本人及びその保護者(法定代理人)であると考えられます。したがって、来校した祖父に対して、学校内での出来事を説明する義務を負うことはありません。
③ それでは、学校として説明する義務は負っていないものの、真に該当の生徒の祖父であることが確認できた場合、祖父の求めに応じて事情を説明することに問題は無いでしょうか。
  本件のような事案では、父母ではなく祖父が来校している理由を把握することで、対応の方針を立てることができる場合が多いでしょう。単純に父母がいずれも多忙で、同居の祖父が来校しているような場合には、父母の了解を得て祖父に対して説明を行うという選択も考えられます。他方で、そのような事情が無い場合、祖父が来校した背景に家庭内の様々な事情がある可能性もあり、祖父だからという理由で安易に事情を説明することは控えた方が無難でしょう。

いじめ

Q
2-1
ある日の放課後、本校のある生徒の保護者から「今日、学校で、子どもが同級生から『丸顔だね。』と言われた。このことで子どもは大変傷ついている。これは『いじめ』にあたるので、『丸顔だね。』と言った生徒を厳しく指導してもらいたい。」との電話がありました。どのように対応すればよいでしょうか。
A

① 本件へ対応するにあたっては、いじめ防止対策推進法(以下「いじめ法」といいます)が定める「いじめ」の定義をおさえておく必要があります。いじめ法第2条第1項は、「この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と定めています。したがって、本件で同級生から「丸顔だね。」と言われた生徒が、同級生の発言によって精神的な苦痛を感じているのであれば、同級生の発言はいじめ法が定める「いじめ」に該当することになります。
② 次に、本件における保護者からの電話の内容をふまえると、該当の生徒に対する「いじめ」があった疑い(可能性)があるといえます。このような場合、電話を受けた教職員は、速やかに管理職に対して電話の内容を報告する必要があります(いじめ法第23条第1項)。そして、報告を受けた管理職は、学年主任、担任等とも協議の上、速やかに、該当の生徒に対する「いじめ」の事実の有無の確認を行うための措置を講ずるとともに、その結果を学校の設置者に報告する必要があります(いじめ法第23条第2項)。ここで注意しなければならないのは、学校は「いじめ」の事実の「有無」を確認する必要があります。そのため、「いじめ」の事実が無いことがハッキリしていない限り、学校としては調査を行う必要があります。
③ 調査の結果、「いじめ」の事実(具体的には、同級生が該当の生徒に対して「丸顔だね。」と言った事実があり、このことで該当の生徒が精神的な苦痛を感じた事実)が確認できた場合には、学校は、「いじめ」をやめさせると共に再発を防止するため、「いじめ」を受けた生徒に対する支援等及び「いじめ」を行った生徒に対する指導等を行う必要があります(いじめ法第23条第3項)。なお、「いじめ」が行われた経緯やその後の経過によっては、厳しい指導が相当とは言えない場合もあります(いじめの防止等のための基本的な方針(文部科学大臣決定)は、「例えば、好意から行った行為が意図せずに相手側の児童生徒に心身の苦痛を感じさせてしまったような場合、軽い言葉で相手を傷つけたが、すぐに加害者が謝罪し教員の指導によらずして良好な関係を再び築くことができた場合等においては、学校は、「いじめ」という言葉を使わず指導するなど、柔軟な対応による対処も可能である。」としています。)。学校は、調査の結果明らかになった事実関係をふまえて、適切な方法で支援及び指導等を行う必要があります。

Q
2-2
昨日、本校の中学2年生の男子生徒Aの保護者から学校に対して、「息子が、同級生5名から、半年の間に約10万円の現金を脅し取られていることが分かった。脅し取られた現金は、同級生5名が使ってしまったようである。」との訴えがありました。この訴えを受けて、本日、指摘された同級生5名に対して事実を確認したところ、主犯とみられる1名は「Aが、自主的に持ってきたもので、脅したりはしていない」と述べて事実を否定したものの、残りの4名は、大筋で事実を認めました。今後、学校としてどのように対応すればよいでしょうか。
A

① A2-1で説明したとおり、保護者からの訴えを受けた教職員は、速やかに管理職に対して訴えの内容を報告する必要があります(いじめ法第23条第1項)。そして、報告を受けた管理職は、学年主任、担任等とも協議の上、速やかに、該当の生徒(A)に対する「いじめ」の事実の有無の確認を行うための措置を講ずるとともに、その結果を学校の設置者に報告する必要があります(いじめ法第23条第2項)。
② 事案の重大性や、主犯とみられる1名が事実を否定していることをふまえると、事実の有無に関する調査は特に丁寧に行う必要があります。具体的には、いつ、どこで、いくらの金銭が交付されたのかを確認することはもちろんですが、どのような経緯で加害生徒に対して金銭が交付されたのか、交付された金銭が何に使われたのか、金銭を使った場面に被害生徒(A)本人がいたのかどうか等の事情もあわせて確認しておくべきでしょう。
③ なお、本件で「いじめ」の事実が確認された場合、加害生徒には被害生徒(A)に対する恐喝罪が成立する可能性もあります。被害生徒(A)及び保護者の処罰感情の強さ等もふまえつつ、「いじめ」が犯罪行為として取り扱われるべき場合には、学校から警察に対して相談又は通報を行うことも検討する必要があります(いじめ法第23条第6項)。どのような場合に警察に相談又は通報すべきかについては、「いじめ問題への的確な対応に向けた警察との連携等の徹底について(通知)」の添付資料1「警察に相談又は通報すべきいじめの事例」が参考になります。

Q
2-3
昨日、本校の小学5年生の女子生徒Aの保護者から学校に対して、「娘が、同じクラスの生徒から悪口を言われて、学校に行きたくないと言っている。」「悪口を言った生徒の住所と電話番号を教えろ。慰謝料を請求する。」「学校にも責任がある。」との訴えが長時間にわたってありました。担任に事情を確認したところ、Aと同じクラスの生徒BとCが、給食の時間にAのことをからかった事実があったようですが、詳細は不明とのことでした。今後、学校としてどのように対応すべきでしょうか。
A

① A2-1で説明したとおり、保護者からの訴えを受けた教職員は、速やかに管理職に対して訴えの内容を報告する必要があります(いじめ法第23条第1項)。そして、報告を受けた管理職は、学年主任、担任等とも協議の上、速やかに、該当の生徒(A)に対する「いじめ」の事実の有無の確認を行うための措置を講ずるとともに、その結果を学校の設置者に報告する必要があります(いじめ法第23条第2項)。
② また、本件では、悪口を言ったとされている生徒の住所と電話番号を教えるように求められていますが、「いじめ」の事実が確認できない場合はもちろん、仮に「いじめ」の事実が確認できても、加害生徒の住所や電話番号を被害生徒の保護者に伝えることは、個人情報保護の観点から原則としてできません。個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)は、個人情報取扱事業者(学校法人等)や行政機関等(教育委員会等)に対して、一定の場合(個人情報取扱事業者の場合は個人情報保護法第27条、行政機関等の場合は同法第69条)を除いて、第三者に対して個人情報を提供してはならないとしています。そして、「いじめ」の加害者であるということだけで、その個人情報(住所や電話番号)を被害者に提供して良いということにはなりません。
③ ところで、「いじめ」の事実が確認されたにもかかわらず加害者側が被害者側に対する個人情報の提供を拒否する場合、学校としては、加害者側に対して情報提供に応じるよう促すことはできても、それ以上の働きかけは困難です。この場合には、「法令に基づく場合」には第三者に対する個人情報の提供が許容されることをふまえて、被害者側に対して弁護士等に相談してもらうよう伝えるほかないでしょう。

Q
2-4
この度、本校の生徒Aの保護者から次のような話しがありました。いじめ防止対策推進法によれば、「重大事態」が認められる場合、それに対処するための措置をとる必要があるとのことですが、以下の事例はそもそも「重大事態」に該当するのでしょうか。
(1)Aが同じクラスの生徒3名から現金1万円を恐喝されたとの申し出がありました。担任が個別に事情を聞いたところ、3名のうち1名は「Aが、嫌々ながらお金を出した」と話していますが、他の2人は「Aが自分から『奢ってあげる』と言ってきたので、奢ってもらった」と話しています。
(2)Aは、2学期開始から3週間、全く学校に来ていません。Aの保護者から「1学期の間、同じクラスの複数の生徒からいじめを受けており、学校に行けなくなった」との訴えがありました。担任が、Aと親しいと思われる複数の生徒から話を聞きましたが、いじめと疑われるような事実は出てきませんでした。
A

① 本件への対応にあたり、「重大事態」に関するいじめ法の定めをおさえておく必要があります。いじめ法第28条第1項は、「いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき。」と「いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき。」を「重大事態」と定め、これらの「重大事態」がある場合には、速やかに学校の設置者又はその設置する学校の下に組織を設け、質問票の使用その他の適切な方法により重大事態に係る事実関係を明確にするための調査を行うこととしています。
② 個々の事案が「重大事態」にあたるかどうかを考える際には、文部科学省が定める「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」の別紙が参考になります。
③ また、「重大事態」とは「心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき」又は「相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき」のことであり、上記ガイドラインが「被害児童生徒や保護者から、『いじめにより重大な被害が生じた』という申立てがあったとき(人間関係が原因で心身の異常や変化を訴える申立て等の「いじめ」という言葉を使わない場合を含む。)は、その時点で学校が『いじめの結果ではない』あるいは『重大事態とはいえない』と考えたとしても、重大事態が発生したものとして報告・調査等に当たること。」としていることにも留意する必要があります。

不登校

Q
3-1
本校のある生徒が2学期の初めから10日間続けて欠席しています。保護者によれば「本人が体調不良を訴えているので休ませている」とのことです。本人の状態については「医師を受診したが、明確な診断は無い」とのことです。今後、どのように対応すれば良いでしょうか。
A

① 今後の対応にあたっては、不登校生徒に対する支援を理解しておくことが必要です。義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律(教育機会確保法)第2条第3号は、「不登校児童生徒」について、「相当の期間学校を欠席する児童生徒であって、学校における集団の生活に関する心理的な負担その他の事由のために就学が困難である状況として文部科学大臣が定める状況にあると認められるもの」と定めています。ここでいう「文部科学大臣が定める状況」とは、「何らかの心理的、情緒的、身体的若しくは社会的要因又は背景によって、児童生徒が出席しない又はすることができない状況(病気又は経済的理由による場合を除く。)」のことです。なお、児童生徒が病気だけでなく心理的要因によって出席しない又はすることができない状況にある場合は「不登校児童生徒」に該当します(「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律第2条第3号の就学が困難である状況を定める省令について」(平成29年2月16日付け文部科学省初等中等教育局長通知))。
② 不登校支援に当たって留意しておくべき点として、次の点を挙げることができます。
  第1に、不登校は、取り巻く環境によっては、どの児童生徒にも起こり得るものであり、不登校というだけで問題行動であると受け取られないように配慮し、児童生徒の最善の利益を最優先に支援を行うことが重要です。(「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する基本指針」(平成29年3月31日付け文部科学大臣決定))。
  第2に、不登校児童生徒の支援に際しては、登校という結果のみを目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指す必要があります。そして、これらの支援に際しては、不登校児童生徒の意思を十分に尊重しつつ行われる必要があり、当該児童生徒や保護者を追い詰めることがないような配慮が求められます(「不登校児童生徒への支援の在り方について」(令和元年10月25日付通知))。
  第3に、不登校児童生徒に対する支援は、組織的に行われることが必要です。支援は、学校全体で行われるべきであり、校長のリーダーシップの下、学校や教員がスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー等の専門スタッフ等と連携・分担して行われる必要があります(前掲「不登校児童生徒への支援の在り方について」))。 

Q
3-2
Q3-1の事案で、該当の生徒について支援策を策定しましたが、今後、福祉、医療等の関係機関と連携しつつ対応を検討すべき場面があるかもしれません。このような場合に、学校が保有する本人の情報を関係機関と共有することは許されるでしょうか。
A

① 本件について考えるうえでは、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)について検討する必要があります。
② 個人情報保護法は、個人情報取扱事業者(学校法人等)や行政機関等(教育委員会等)に対して、一定の場合(個人情報取扱事業者の場合は個人情報保護法第27条、行政機関等の場合は同法第69条)を除いて、第三者に対して個人情報を提供してはならないとしています。そして、本人の同意があるときに本人の情報を関係機関と共有することは問題ありませんが、仮に本人の同意が得られないとき(あるいは同意を得ることが困難なとき)でも、個人情報取扱事業者(学校法人等)については「児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合」(個人情報保護法第27条第1項第3号)又は「国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき」(同項第4号)、行政機関等(教育委員会等)については「保有個人情報を提供することについて特別の理由があるとき」(同法第69条第2項第4号)又は「他の行政機関、独立行政法人等、地方公共団体の機関又は地方独立行政法人に保有個人情報を提供する場合において、保有個人情報の提供を受ける者が、法令の定める事務又は業務の遂行に必要な限度で提供に係る個人情報を利用し、かつ、当該個人情報を利用することについて相当の理由があるとき」(同項第3号)には、関係機関との情報共有が可能です。

Q
3-3
本校では、中学2年生のある生徒が2学期の開始当初から欠席となり、その後2か月以上にわたって欠席しています。この度、生徒の保護者から次のような申し入れがありました。どのように対応すれば良いでしょうか。
(1)フリースクールに通っているので、これを「出席」として扱ってほしい。
(2)自宅で行っているインターネットを利用した学習について、「出席」として扱ってほしい。
(3)同じ学級内の他の生徒との関係が悪く通学が困難となっているので、別のクラスに移りたい。
(4)同じ学級の他の生徒によるいじめが不登校の原因なので、いじめの加害者を別のクラスに移してほしい。
(5)別の学校に転校したい。
A

① 教育機会確保法は、教育機会の確保等に関する施策の基本理念の1つに「不登校児童生徒が行う多様な学習活動の実情を踏まえ、個々の不登校児童生徒の状況に応じた必要な支援が行われるようにすること」を定めています(教育機会確保法第3条第2号)。また、同法第13条は「不登校児童生徒が学校以外の場において行う多様で適切な学習活動の重要性」を指摘しています。学校は、これらの定めもふまえつつ、不登校生徒に適切に対応する必要があります。
② 「不登校児童生徒への支援の在り方について」(令和元年10月5日付通知)は、義務教育段階の不登校児童生徒が学校外の公的機関や民間施設において相談・指導を受けている場合の指導要録上の出欠の取扱いについて、出席扱いの要件として、(ⅰ)保護者と学校との間に十分な連携・協力関係が保たれていること、(ⅱ)出席扱いとなる学校外の施設は、基本的に公的機関とするが、民間施設も対象となり得ること、(ⅲ)当該施設に通所又は入所して相談・指導を受ける場合を前提とすること等を述べています。学校は、この通知をふまえつつ、該当の生徒を「出席」と扱うことについて検討することが適切でしょう。
③ ②で説明した「不登校児童生徒への支援の在り方について」は、不登校児童生徒が自宅においてICT等を活用した学習活動(ICT(コンピュータやインターネット、遠隔教育システムなど)や郵送、FAXなどを活用して提供される学習活動のこと)を行うときの指導要録上の出欠の取扱いについても述べています。出席扱い等の要件としては、①保護者と学校との間に十分な連携・協力関係が保たれていること、②訪問等による対面指導が適切に行われることを前提とすること、③学習活動は、当該児童生徒の学習の理解の程度を踏まえた計画的な学習プログラムであること、④校長が、当該児童生徒に対する対面指導や学習活動の状況について十分に把握すること、⑤基本的に当該不登校児童生徒が学校外の公的機関や民間施設において相談・指導を受けられないような場合に行う学習活動であること、⑥学習活動の成果を評価に反映する場合には、学校が把握した当該学習の計画や内容がその学校の教育課程に照らし適切と判断される場合であること等を述べています。学校は、この通知をふまえつつ、該当の生徒を「出席」と扱うことについて検討することが適切でしょう。
④ 同じく「不登校児童生徒への支援の在り方について」は、いじめや教員による不適切な言動や指導等が不登校の原因となっている場合には、児童生徒又は保護者等が希望する場合、柔軟に学級替えの措置を行うことや、就学すべき学校の指定変更や区域外就学を認める等の対応も重要であるとしています。学校は、この通知もふまえつつ、学級替えや転校について検討することが適切です。なお、いじめの加害生徒の学級替えについては、理論的には学校長の判断で可能と考えられますが、加害生徒に与える影響の大きさをふまえると、行われたいじめの内容や経緯等もふまえつつ検討する必要があります。

学校事故

Q
4-1
この度、本校の教室内で、次のような事故が発生しました。
給食後の休み時間に、担任が午後の授業の準備のために職員室にいたところ、教室内で生徒Aが振り回していたジャンパーの金具の部分が、教室内にいた生徒Xの右目に当たったようです。他の生徒からの連絡を受けた担任は直ちにXを保健室に連れて行き、その後、養護教諭が付き添って眼科の医院を受診しました。その後、医師の判断で、市内にある病院の眼科を受診することになりました。
(1)現時点で学校として行っておくべきことがあれば、教えて下さい。
(2)学校(市)、教員、加害児童、加害児童の保護者といった関係者が負う可能性のある責任について教えて下さい。なお、本校は公立学校ですが、私立学校の場合と異なる点があれば、あわせて教えて下さい。
A

① 学校事故への対応に当たっては、文部科学省から公表されている「学校事故対応に関する指針」をおさえておく必要があります。この指針は、(ⅰ)事故発生直後の取組として、応急手当の実施、被害児童生徒等の保護者への連絡、現場に居合わせた児童生徒等への対応の3点について、(ⅱ)初期対応時の取組として、危機対応の態勢整備、被害児童生徒等の保護者への対応、学校の設置者等への事故報告、支援要請、保護者への説明、記者会見を含む情報の公表及び関係機関との調整、基本調査の実施の6点について、(ⅲ)初期対応終了後の取組として、基本調査の結果をふまえた詳細調査の実施について、それぞれ説明しています。
② 事実関係の調査、確認の方法としては、一般的には、加害者及び被害者のほか、その場にいた教職員や児童生徒からの聞き取りが想定されます。その際、子どもは大人に比べて被暗示性が強く、事故後の周囲の言動等に影響されやすいと言われていることもふまえ、児童生徒からの聞き取りは事故後のなるべく早い段階で行うことが大切です。また、聞き取りを行う際には、集団で行うのではなく、1人当たりの時間が短時間になったとしても別々に行うべきです。確認すべき事実の内容についても、事故発生時はもちろん、その前後の状況についてもなるべく具体的に確認する必要があります。なぜなら、事故が発生したこと自体は明らかであっても、損害賠償義務の有無や範囲との関係で、その事故が発生するに至った経緯等が問題となることが少なくないからです。
③ 関係者が負う可能性のある責任は、公立学校と私立学校で異なります。
  公立学校の場合、学校の設置者は、国家賠償法第1条第1項に基づいて責任を負う可能性があります。なお、仮に学校の設置者が責任を負う場合でも、教職員個人が被害者に対して直接責任を負うことはありません。また、加害生徒本人は民法第709条に基づいて、加害生徒の保護者は民法第709条又は第714条第1項に基づいて、責任を負う可能性があります。
  私立学校の場合、教職員個人は民法第709条又は第714条第2項に基づいて責任を負う可能性があります。また、教職員個人が責任を負う場合、学校の設置者は民法第715条第1項に基づいて責任を負う可能性があります。加害生徒本人及びその保護者の責任については、公立学校の場合と同様です。
  複数の者(例えば、学校設置者と加害児童生徒の親権者等)が責任を負う場合、被害者は、発生した損害の範囲内であれば、全額が賠償されるまで誰にいくら請求しても構いません。例えば、発生した損害が100万円の場合、学校設置者だけに対して100万円を請求しても構いませんし、学校設置者と加害児童生徒の親権者の両方に対して同時に100万円を請求し、いずれか一方から支払があった範囲で他方への請求を減額することも認められます。

Q
4-2
Q4-1の事案において、先日、被害児童であるXの保護者から学校に対して、次のような申出がありました。学校としてどのように対応すればよいでしょうか。
(1)加害児童であるAの住所、電話番号を教えてほしい。
(2)学校において、Aの保護者と話し合う場を設定してほしい。話し合いの場には、学校が立ち会ってほしい。
A

① 本件のように、学校事故やいじめの事案において、被害者の保護者から加害者の連絡先を教えてほしいと言われることは珍しくありませんが、加害者側の了解無く直ちに被害者に対して連絡先を伝えることは、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)との関係で問題があります。
② 個人情報保護法は、個人情報取扱事業者(学校法人等)や行政機関等(教育委員会等)に対して、一定の場合(個人情報取扱事業者の場合は個人情報保護法第27条、行政機関等の場合は同法第69条)を除いて、第三者に対して個人情報を提供してはならないとしています。そして、学校事故の加害者であるということだけで、その個人情報(住所や電話番号)を被害者に提供して良いということにはなりません。学校としては、加害者側に対して情報提供に応じるよう促すことはできても、それ以上の働きかけは困難です。この場合、「法令に基づく場合」には第三者に対する個人情報の提供が許容されることをふまえて、被害者側に対して弁護士等に相談してもらうよう伝えるほかないでしょう。
③ 学校事故の被害者又は加害者から、学校で話し合いの場を設けてほしいという要望もよくみられます。特に、加害者側が被害者側に対する連絡先の伝達に応じない場合、被害者は、学校以外の場で加害者と話し合うことは事実上困難です。当センターとしては、面談の場を設定する事自体は差し支えなく、事案によっては積極的に設定する方向で検討しても良いと考えます。ただし、次の2点には注意するべきでしょう。第1に、面談の際に当事者の一方又は双方が感情的になることもあり得るため、そのような事態に備えて、可能な限り教職員が同席することが望ましいでしょう。なお、同席する教職員は管理職である必要はありません。第2に、学校としては、あくまで協議の場を提供しているに過ぎず、学校としての見解や事実関係を説明するために同席するものではありません。したがって、当事者のいずれかから質問があったとしても、基本的には「今日の場は、そのような趣旨で設定したものではありませんので、回答は控えさせてください。」と述べるにとどめるべきでしょう。このような観点からは、同席する教職員は、むしろ該当の事案から少し離れた位置にいる者の方が良いかもしれません。

Q
4-3
Q4-1の事案において、保護者の話では、残念ながらXの視力低下は免れないとのことでした。このような状況を受けて、Xの保護者としては、弁護士に相談し、しかるべき相手にしかるべき金額を請求することを考えているとのことでした。ところで、治療費等はスポーツ振興センターの支払によってまかなわれると思うのですが、センターから支払われる金銭を超える損害賠償の請求が認められることはあるのでしょうか。また、今後、Xの保護者から損害賠償請求の話が出た場合、どのように対応すれば良いでしょうか。
A

① 独立行政法人日本スポーツ振興センターの災害共済給付金の種類は、負傷・疾病に対する医療費(費用の額が5000円以上の場合)、障害見舞金(その程度によって、1級から14級に区分される)、死亡見舞金、供花料(損害賠償を受けたことなどにより死亡見舞金を支給しないものに対し支給される)、へき地通院費に限定されています。一方、不法行為に基づく損害賠償においては、センターの災害共済給付金の対象とはならない損害(例えば逸失利益)も損害賠償の対象となりますから、センターから支払われる金額を超える損害賠償が認められる可能性はあります。
② 学校事故の被害者から学校長等の現場の教職員に対して損害賠償に関する話があった場合、まずは、学校長等の判断で損害賠償に応じるか否かを決めることはできないことに注意が必要です。また、被害者が主張する損害賠償の金額が妥当なものか否かについても、学校長等には判断がつかないことにも注意が必要です。現場の教職員としては、「申し訳ありませんが、私は、法律の専門家ではありませんし、賠償金の支払を決める権限もありません。私が何か発言することで、誤解を生んだり、混乱させたりしてはいけませんので、私から申し上げることはありません。」などと回答するほかないでしょう。

懲戒・体罰

Q
5-1
本日の夕方、本校の生徒Aの保護者から「子どもが、今日は給食を食べられなかったといったと言っている。説明してほしい。」との電話がありました。担任から話を聞いたところ、Aは普段から、授業中の立ち歩きや私語が目立つ生徒であり、4時限目の授業でのAの悪ふざけが度を過ぎていたため、教室の後方に起立させ、その後、給食の時間になってもそのまま起立させたが、給食の時間の途中で席に戻ってよいと伝え、その後午後の授業の準備のために職員室に行ったとのことです。Aが給食を食べたかどうかは不明とのことです。学校はどのように対応すれば良いでしょうか。
A

① 本件に対応するにあたっては、「懲戒」と「体罰」についておさえておく必要があります。
  「懲戒」と「体罰」について学校教育法第11条は「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。」と定めています。
② ここで、「懲戒」とはいかなる行為を指すかですが、「懲戒」には、法的な効果を伴う懲戒(学校教育法施行規則第26条に基づく懲戒で、退学、停学及び訓告)と、事実行為としての懲戒(注意、叱責、居残り、別室指導、起立、宿題、清掃、学校当番の割当て、文書指導等)の両方が含まれます。そして、「懲戒」を加えるに当たっては、児童等の心身の発達に応ずる等教育上必要な配慮をしなければなりません(学校教育法施行規則第26条)。
③ 次に、「体罰」とはいかなる行為を指すかですが、これを一言で説明するのは困難です。以下では、文部科学省が出している通知及び「体罰」に関する具体例について解説します。
  文部科学省は、平成25年3月13日に「体罰の禁止及び児童生徒理解に基づく指導の徹底について」を出しています。この通知は、「体罰」について「体罰により正常な倫理観を養うことはできず、むしろ児童生徒に力による解決への志向を助長させ、いじめや暴力行為などの連鎖を生む恐れがある。」としています。また、この通知は、「懲戒」と「体罰」の区別について、「教員等が児童生徒に対して行った懲戒行為が体罰に当たるかどうかは、当該児童生徒の年齢、健康、心身の発達状況、当該行為が行われた場所的及び時間的環境、懲戒の態様等の諸条件を総合的に考え、個々の事案ごとに判断する必要がある」としています。そして、「懲戒の内容が身体的性質のもの、すなわち、身体に対する侵害を内容とするもの(殴る、蹴る等)、児童生徒に肉体的苦痛を与えるようなもの(正座・直立等特定の姿勢を長時間にわたって保持させる等)に当たると判断された場合は、体罰に該当する。」としています。
さらに、この通知は、別紙として「学校教育法第11条に規定する児童生徒の懲戒・体罰等に関する参考事例」を示しています。ここでは、「体罰(通常、体罰と判断されると考えられる行為)」や「認められる懲戒(通常、懲戒権の範囲内と判断されると考えられえる行為)(ただし肉体的苦痛を伴わないものに限る。)」について具体例が示されています。ここで、いくつか紹介しておきます。
  【身体に対する侵害を内容とする体罰】
・立ち歩きの多い生徒を叱ったが聞かず、席につかないため、頬をつねって席につかせる。
・生徒指導に応じず、下校しようとしている生徒の腕を引いたところ、生徒が腕を振り払ったため、当該生徒の頭を平手で叩(たた)く。
・給食の時間、ふざけていた生徒に対し、口頭で注意したが聞かなかったため、持っていたボールペンを投げつけ、生徒に当てる。
  【被罰者に肉体的苦痛を与えるような体罰】
・別室指導のため、給食の時間を含めて生徒を長く別室に留め置き、一切室外に出ることを許さない。
・宿題を忘れた児童に対して、教室の後方で正座で授業を受けるよう言い、児童が苦痛を訴えたが、そのままの姿勢を保持させた。
  【認められる懲戒】
・放課後等に教室に残留させる。
・授業中、教室内に起立させる。
・学習課題や清掃活動を課す。
・学校当番を多く割り当てる。
・立ち歩きの多い児童生徒を叱って席につかせる。
④ 本件では、上記のような法令等の内容をふまえつつ、なるべく早期に、(ⅰ)Aが給食を食べたのかどうか、(ⅱ)Aに対して行われた懲戒の経緯及び内容の2点について、Aから聴取するとともに、必要に応じて同じクラスの他の生徒に対して聴取するなどして事実関係を調査、確認する必要があるでしょう。

Q
5-2
本日、本校の生徒Aの保護者から、「子どもが、体育の授業中に担当の教員Bから頻繁に怒鳴られるので、怖くて学校に行きたくないと言っている。」とのことでした。
・この電話を受けて、学校はどのように対応すればよいでしょうか。
・その後、Aは学校に登校することが難しくなりました。Aの保護者は「慰謝料を請求する」と言っています。どのように対応すればよいでしょうか。
A

① A5-1で説明したとおり、学校教育法第11条は「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。」と定めています。
  また、「体罰」とはいえない「懲戒」であっても、「懲戒」を加えるに当たっては、児童等の心身の発達に応ずる等教育上必要な配慮をしなければなりません(学校教育法施行規則第26条)。したがって、「体罰」に該当しない「懲戒」であっても、教育上必要な配慮を欠く場合には違法とされる可能性があります。
② 学校としては、まずは事実関係を調査、確認する必要があります。なるべく早期に、A本人から聴取するほか、A本人からの聴取が難しい場合には、当時周囲にいた生徒からの聴取も行うべきでしょう。聴取に当たっては、「評価」ではなく客観的な「事実」を確認する姿勢が重要です。
③ 事実関係の調査、確認が一段落した時点で、その結果を保護者に対して説明します。その際も、まずは「評価」ではなく客観的な「事実」を説明することが重要です。
④ 保護者から教員の行為に対して損害賠償の請求があった場合に、その行為が損害賠償の対象となるか否か、仮に損害賠償の対象となるとして被害者の損害をいくらと評価するかは難しい問題です。また、損害賠償に応じるか否かの判断は、通常、校長ではなく学校の設置者の権限です。したがって、保護者から損害賠償の話があった際には、「申し訳ありませんが、私の方では答えかねます。」などと回答するほかないでしょう。保護者が、さらなる請求を希望する場合には、学校設置者と相談の上、連絡窓口を確認して保護者に伝えます。

Q
5-3
私はある私立高校の校長です。本校は全寮制となっていますが、先日、本校の複数の生徒が寮内で飲酒するという出来事がありました。学内で検討した結果、他の生徒に与える影響を考慮して、飲酒した生徒に対して自主退学を勧告することを検討していますが、注意すべき点があれば教えてください。
A

① 本件に対応するにあたっては、懲戒について定める学校教育法及び同法施行規則の定めをおさえておく必要があります。学校教育法第11条本文は、「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。」と定めており、これを受けて定められた学校教育法施行規則第26条第3項は、退学を行うことができる場合として、「性行不良で改善の見込がないと認められる者」「学力劣等で成業の見込がないと認められる者」「正当の理由がなくて出席常でない者」「学校の秩序を乱し、その他学生又は生徒としての本分に反した者」の4つを挙げています。本件では、上記のうち「性行不良で改善の見込がないと認められる者」あるいは「学校の秩序を乱し、その他学生又は生徒としての本分に反した者」に該当するか否かが問題となります。
② 本件では、学校の寮内で飲酒をしたというのですから、少なくとも「学校の秩序を乱し、その他学生又は生徒としての本分に反した者」には該当すると考えられます。ただ、だからといって直ちに退学処分が相当であるということにはなりません。最高裁判所は、生徒の退学処分について「退学処分は学生の身分をはく奪する重大な措置であり、(中略)当該学生を学外に排除することが教育上やむを得ないと認められる場合に限って退学処分を選択すべきであり、その要件の認定につき他の処分の選択に比較して特に慎重な配慮を要するものである」と述べています。また、自主退学勧告については、最高裁判所の判断は無いものの、下級審の裁判例は「自主退学勧告は、生徒の身分喪失につながる重大な措置であるから、とりわけ慎重な配慮が要求される」とか「自主退学勧告は、退学処分ではないものの、その結果の重大性からして、退学処分に準ずる事由の存在する状況のもとにされるべきものと考えられる」と述べています。
  また、飲酒や喫煙を理由とする退学処分の効力が争われた裁判例をみると、私立の高等学校の生徒が喫煙を理由として退学処分となったことに関して、喫煙行為自体が改善の見込み無しとして直ちに学外に排除しなければならないほどの悪質な行為ではないこと、過去に非行歴・処分歴が無いこと等を述べた上で、校長による退学処分は社会通念上合理性を欠き、懲戒権行使に当たっての裁量を逸脱したものとして違法であると判断した大阪高等裁判所の裁判例や、公立の高等学校の生徒が寮内での複数回の飲酒等を理由として退学処分となったことに関して、飲酒行為等をもって退学処分を選択することに相当性があるとはいえず、退学処分は違法であると判断した那覇地方裁判所の裁判例があります。
③ 以上をふまえると、過去に処分歴があるなどの事情がない限り、本件における自主退学勧告処分は重すぎると判断される可能性が高いでしょう。

校則

Q
6-1
本日、2学期から本校に転入してくる予定の生徒の保護者から電話があり、「1学期まで通っていた学校では制服は無く、今後も同様にしたいと考えていますが、ダメでしょうか。」との問い合わせがありました。私から「校則で定められていることでもあり、他の生徒は全員制服を着用しているのでご理解ください。」と回答したところ、「そもそも、制服の着用を義務付けることは生徒の人権を侵害するものではないか。」との発言がありました。どのように対応すればよいでしょうか。
A

① 校則を制定する権限について明確に定めている法令はありませんが、裁判例では、学校が教育目標を達成するために、必要かつ合理的な範囲内で校則を制定することが認められています。
② そこでまずは、学校が制服を定めている目的(教育目標)についてあらためて確認し、その内容を生徒本人及び保護者に丁寧に説明する必要があるでしょう。文部科学省から出されている生徒指導提要でも「校則に基づく指導を行うに当たっては、校則を守らせることばかりにこだわることなく、何のために設けたきまりであるのか、教職員がその背景や理由についても理解しつつ、児童生徒が自分事としてその意味を理解して自主的に校則を守るように指導していくことが重要です。」とされています。
③ なお、本件に対応するにあたっては、保護者がこのような問い合わせをしていた背景をきちんと把握する必要があります。制服を準備することの経済的負担や、生徒本人の生物学的な性別と心理的な性別の不一致(性同一性障害等)が背景にある可能性もあります。このような背景事情がある場合には、文部科学省から出されている「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)」の内容などもふまえつつ、学校として適切に配慮することが求められます。

Q
6-2
本校では、校則で「髪を染めて登校してはならない」ことを定めています。本日、2学期が始まったのですが、ある生徒が髪を染めて登校してきました。今日まで、この生徒が髪を染めて登校したことは一度もありませんでした。この生徒について、次の対応をとることに問題はあるでしょうか。
(1)この生徒を帰宅させ、地毛の色に戻してから登校するように指導する。
(2)この生徒の了解を得た上で、髪に黒色のスプレーを吹き付ける。
(3)地毛の色に戻すように指導した上で、色を戻すまでの間、別室で指導する。
A

① 校則違反があった場合の学校の対応として、まずは「生徒指導」があります。文部科学省から出されている「生徒指導提要」は、「生徒指導」とは「児童生徒が、社会の中で自分らしく生きることができる存在へと、 自発的・主体的に成長や発達する過程を支える教育活動のこと」であり、その目的を「児童生徒一人一人の個性の発見とよさや可能性の伸長と社会的資質・能力の発達を支えると同時に、自己の幸福追求と社会に受け入れられる自己実現を支えること」としています。
  また、学校の対応として、校則違反の内容及び程度等をふまえて教育上必要があると認めるときは、「懲戒」(学校教育法第11条)の措置をとることも考えられます。この「懲戒」を行うにあたっては、児童生徒の心身の発達に応ずる等教育上必要な配慮をしなければなりません(学校教育法施行規則第26条第1項)。
② 校則違反のある生徒について、一度帰宅させ、違反状態を解消してから登校するよう指示することは珍しくないと思われますが、このような指導は法的に問題がある可能性があります。なぜなら、このような指導は事実上出席停止と同様の効果をもたらす可能性があるからです。学習権の行使として学校に登校した生徒について、校則に違反していることを理由に授業を受けることを認めずに帰宅するよう指示することは、出席停止について定めた法令の要件を満たさず、また、所定の手続きをふまずに生徒の学習権を制限する結果となります。したがって、このような指導は違法と判断される可能性があります。
③ 校則違反があった場合に、実力を行使して校則に従わせることは認められません。したがって、生徒の了解無くこの生徒の髪の毛の色をスプレーで変えることも認められません。生徒自身がスプレーで髪を黒くすることを了解した場合、その生徒が自分が受ける行為の意味を十分に理解しており、本人の自由な意思に基づいて行われたことであれば、違法とまではいえないでしょう。しかし、そのような対応が適切かどうかについては、さらに検討が必要です。本件では、該当の生徒は過去に髪を染めて登校したことがなかったというのですから、夏休み期間中に、生徒の内心や生活環境に大きな変化があった可能性があります。したがって、まずは髪を染めて登校してきた理由や困っていることが無いか等について、時間をかけて話を聞くことが必要だと考えられます。
④ 地毛の色に戻すように指導すること自体は、特段問題ないと考えられます。髪の色を戻すまでの間別室で指導することについては、教育上の必要性があり、かつ、該当の生徒に対して教育上必要な配慮がなされるのであれば、別室での指導も認められると考えられます。

個人情報・プライバシー

Q
7-1
本校では例年、生徒間及び保護者間の連絡の円滑化の観点から、新入生についてクラス名簿を作成し、新入生全員に配付しています。クラス名簿には、生徒の氏名、住所、電話番号(自宅又は携帯)、メールアドレスを掲載することとしており、入学当初に所定の用紙を配付し、これらの情報を記載して提出するようお願いしています。この度、新入生の保護者から、「クラス名簿の作成は個人情報保護の観点から問題があるのではないか」との指摘がありました。クラス名簿を作成することに法的な問題はありますか。また、各生徒から情報を提供してもらう際や名簿作成後の注意点があれば、あわせて教えて下さい。
A

① 本件に対応するにあたっては、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)をおさえておく必要があります。本件の学校が私立学校の場合、学校の設置者は「個人情報取扱事業者」(個人情報保護法第16条第2項)に該当します。学校が公立学校の場合、教育委員会は「行政機関等」(個人情報保護法第2条第11号)に該当します。いずれの場合も、生徒から個人情報を収集する際には、利用目的を特定し、これを対象者に明示すること等が求められます。
② また、個人情報保護法に基づいて設置されている個人情報保護委員会は「会員名簿を作るときの注意事項」を公表しています。これは、直接的には自治会や同窓会向けとなっていますが、学校やPTA等で名簿を作成する際にも参考になります。「会員名簿を作るときの注意事項」は、「個人情報を集める、保管するときのルール」を3つのステップ(個人情報を集める前、本人から個人情報を集めるとき、個人情報を保管しているとき)に分けて定めています。具体的には、「個人情報を集める前」のルールとして、個人情報の利用目的をあらかじめ特定することを、「本人から個人情報を集めるとき」のルールとして、本人から書面で個人情報を取得する場合には本人に対して利用目的を明示することを、「個人情報を保管しているとき」のルールとして、集めた個人情報の漏えい防止のために適切な措置を講じること、及び集めた個人情報のないように誤りがあった場合に訂正するための手続の方法等を本人の知り得る状態におき、請求に応じて訂正することを、それぞれ定めています。「会員名簿を作るときの注意事項」は、「個人情報を第三者に提供するときのルール」についても定めています。具体的には、本人以外の者に個人情報を提供する場合は、あらかじめ本人の同意を得ること、提供先などを記録し一定期間保管すること、個人情報を委託先に提供する場合には適切な監督を行うことを、それぞれ定めています。
③ 作成された名簿を配付するにあたっては、盗難・紛失等がないよう適切に管理する必要があるほか、名簿の配付先である生徒及び保護者に対して、盗難や紛失に注意すると共に、転売その他第三者に提供することがないように注意喚起することも必要です。

Q
7-2
本校では、本校の様子を広く知ってもらうべく、ホームページ上で学校行事の様子等を紹介しています。ところで先日、PTAの役員の1人から「ホームページ上で学校行事の様子を紹介することは良いことだと思いますが、生徒の写真を掲載することは問題ではないでしょうか。」との意見がありました。生徒が写った写真を学校のホームページに掲載することに法的な問題はありますか。
A

① 本件について考えるにあたっては、個人情報保護法のほか、プライバシー権や肖像権についても検討する必要があります。個人情報保護法第23条は「個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。」と定めています。ここでいう「個人データ」とは、個人情報データベース等(個人情報を含む情報の集合物であって、特定の個人情報を検索することができるように体系的に構成したもの・個人情報保護法第2条第4項参照)を構成する個人情報のことをいいます。したがって、生徒の写真は「個人情報」に該当すると考えられますが、「個人データ」として第三者への提供等に本人の同意を要するかどうかは、一概にはいえません。生徒一人一人の顔写真を、クラスごと、性別ごと、出席番号順等に整理したものは「個人データ」に該当すると考えられますが、運動会や修学旅行、その他学校行事の様子を撮影した写真は「個人データ」には該当しないと考えられます。
② プライバシー権や肖像権について明確に定めた法令はありませんが、いずれも裁判例では肯定されています。例えば最高裁判所平成20年3月6日判決は、プライバシー権について「憲法13条は、国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものであり、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するものと解される。」と述べています。また、例えば最高裁判所平成17年11月10日判決は、肖像権について「人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する。」と述べています。
③ 生徒が写った写真をホームページ上に掲載する際には、写真から個々の生徒を特定することが可能か否かで場合を分けて考えるのがよいでしょう。写真から個々の生徒を特定することが困難であれば、そのような写真を掲載することによって、みだりに当該生徒の容ぼうを開示したとはいえず、プライバシー権や肖像権の観点からも問題はないと考えられます。一方、写真から個々の生徒を特定できる場合、その生徒本人(あるいは保護者)からの承諾が無い限り、プライバシー権や肖像権の侵害となる可能性があるため、承諾がない限り掲載は控えるべきでしょう。
④ なお、実際の学校運営にあたっては、生徒ごとに様々な事情(例えば、事情があって別居している親に居所を知られたくない等)を抱えている可能性にも配慮して、生徒及び保護者に対して、例えば年に1回以上連絡文書を配付するなどして、学校行事において撮影された写真が学校のホームページに掲載される可能性をアナウンスすると共に、支障がある場合には学校まで連絡してもらう等の配慮を行うことが望ましいでしょう。

Q
7-3
本校では、例年卒業アルバムを作成しており、末尾にその年の卒業生の氏名と住所を記載しています。アルバムの作成は業者に依頼しており、その際、学校が保管している学校行事の写真及び生徒の氏名、住所を業者に提供しています。卒業アルバムに住所、氏名を掲載することや、学校行事で撮影された写真を掲載することについては、事前に保護者から了解を得ていますが、その他に注意すべきことがあれば教えて下さい。
A

① 本件では、卒業アルバムに住所、氏名を掲載することや、学校行事で撮影された写真を掲載することについては、事前に保護者から了解を得ているということですから、個人情報保護法やプライバシー、肖像権といった観点からは、特に問題は無いと考えられます。
② ところで、卒業アルバムの作成に当たっては、学校やPTAからアルバムを製作する業者に対して生徒の個人情報(氏名や顔写真)が提供されることが一般的ですが、このような業者への提供に当たっても、別途、生徒本人(又は保護者)の同意が必要になるのでしょうか。
  個人情報保護法第25条第5項第1号は、「個人情報取扱事業者が利用目的の達成に必要な範囲内において個人データの取扱いの全部又は一部を委託することに伴って当該個人データが提供される場合」について、第三者への提供には該当しないとしています。したがって、アルバムを製作する業者への個人情報の提供には、別途の同意は必要ないと考えられます。
③ 他方、個人情報保護法第22条は、「個人情報取扱事業者は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。」と定めています。したがって、委託する業務内容との関係で必要のない個人データを提供しないようにすることはもちろん、(ⅰ)適切な委託先の選定、(ⅱ)適切な内容での委託契約の締結、(ⅲ)委託先における個人データ取扱状況の把握といった、必要かつ適切な措置を講じる必要があります。

児童生徒の両親の離婚・別居

Q
8-1
本校に在籍する生徒の母親から次のような申し入れがありました。どのように対応すれば良いでしょうか。
(1)先日、夫と離婚し、自分が子どもの親権者となり子どもを監護することとなった。離婚後は結婚前の姓を名乗ることとした。今後、子どもについても姓を変更する予定であるが、変更後も学校内では旧姓の使用を認めてほしい。
(2)現在、夫と別居しており、近日中に離婚予定である。離婚後は旧姓に戻る予定であるので、別居を機会に旧姓を使用することとし、実際に旧姓を使用している。子どもについても、自分と同居しており、今後も自分が育てていくので、自分と同じ姓の使用を認めてほしい。
A

① 学校内では、児童生徒に関して指導要録、出席簿、健康診断に関する表簿等が作成され、そこには児童生徒の氏名が記載されますが、これらに記載される氏名は、通常、戸籍上の氏名又は住民基本台帳上の氏名(外国人の場合)となります。他方、学校内における児童生徒の通称名使用の可否については、これに関する法令上の規定はありませんが、氏名が自分と他人を識別する機能を有するとともに、個人の人格を象徴するものであり、個人のアイデンティティを確立するものであることはおさえておく必要があります。
② (1)の事案で通称名使用の可否を判断するに当たっては、その児童生徒が置かれた状況をふまえて検討、判断することが求められます。したがって、まずはその児童生徒が置かれた状況を把握する必要があります。具体的には、保護者からの事情聴取、本人からの事情聴取、事実確認のために必要な資料を提示してもらうこと等が考えられます。
  一般的には、多感な時期を迎えるにあたり、学校という一日の大部分を過ごす場所で使用される氏名が変更されることで、該当の児童生徒の心理面に何らかの影響が生じる可能性があることをふまえ、該当の児童生徒及びその保護者が希望するのであれば、通称名の使用を認めることに問題はないと考えられます。
③ (2)の事案においても、(1)と同様に、保護者からの事情聴取、本人からの事情聴取、事実確認のために必要な資料を提示してもらうことなどを通じて、該当の児童生徒が置かれた状況を把握する必要があります。その上でどのように対応するかですが、(2)の事案では(1)の事案と異なる配慮が必要になると考えられます。
  第1に、(1)の事案がこれまで使用していた姓と同じ姓の継続使用を希望するものであるのに対し、(2)の事案は、これまで使用していた姓とは別の性への変更を希望するものであるという点に注意が必要です。児童生徒のプライバシーや心理面への配慮という観点から通称名の使用を正当化することは困難と考えられます。
  第2に、(1)の事案は親権者が1名であるのに対し、(2)の事案は親権者が2名であるという点に注意が必要です。該当の児童生徒の両親の離婚において、父母のいずれを親権者とするかが争われている場合、仮に母からの申出に応じて通称名の使用を認めると、母は、その事実を離婚の調停や訴訟で自分に有利な事実として主張する可能性があります。例えば、「子どもは、既に母の旧姓を使用して学校生活を含む日常生活を送っている。父が親権者となると、現在使用している姓も変更せざるを得ず、子どもの精神面に大きな影響を与えることとなる。」といった具合です。父母の離婚問題に関して中立であるべき学校にとって、このような事態は望ましくないものです。また、父の怒りの矛先が、親権者である父の了解無く通称名の使用を認めた学校に対して向けられることも考えられます。
  以上の点をふまえると、(1)の事案と異なり、該当の児童生徒の通称名の使用を認めるか否かは慎重に検討すべきでしょう。該当の児童生徒が学校外において既に母親の旧姓を通称名として使用しており、かつ、本人もそのことに同意、納得して通称名の使用を希望しているのであれば、通称名の使用を認めることは違法とまではいえないと考えられます。

Q
8-2
(1)本日、本校に在籍する生徒の父親から、「個人情報保護法に基づいて、学校が把握している子どもの現住所を教えてほしい」との申し入れがありました。この申し入れに対して、どのように対応すればよいでしょうか。
(2)父親からの申出を受けて校内で確認したところ、1週間前にこの生徒の母親から「父親からDV(ドメスティック・バイオレンス)を受けており、3か月前に父親と別居して母親と子どもの2人で暮らしている。現在は転居先から通学している。」との話があったことがわかりました。父親からの開示要請に対してどのように対応すれば良いでしょうか。
A

① 本件に対応するにあたっては、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)の定めをおさえておく必要があります。個人情報保護法第28条第1項は、「本人は、個人情報取扱事業者に対し、当該本人が識別される保有個人データの開示を請求することができる。」と定めています。また、同法第32条第3項は、「開示等の請求等は、政令で定めるところにより、代理人によってすることができる。」と定めており、これを受けた個人情報の保護に関する法律施行令(個人情報保護法施行令)第11条は、開示請求等ができる代理人として「未成年者の法定代理人」を定めています。
  前記の個人データの開示請求があった場合、原則として開示に応じなければなりません(個人情報保護法第28条第2項本文)。ただし、一定の事由が認められる場合には、開示請求の対象となっている個人データの全部又は一部を開示しないことができます(同法第28条第2項第1号ないし第3号)。具体的には、(ⅰ)本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合、(ⅱ)当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合、(ⅲ)他の法令に違反することとなる場合に、全部又は一部を開示しないことができます。
② 本件では、父親が自分の子どもの現住所を知りたいということですから、背後に家庭内における何らかの事情があると推測することができます。今後の対応を考える上でも、まずは申立てに至った事情を聞いてみるのが良いでしょう。ただし、個人情報保護法基づく開示請求に当たって、開示請求を行う者が開示の理由を示す義務はありません。したがって、申立てに至った事情について説明を拒否された場合には、それ以上追求せずに、所定の開示請求書に記入を求め、受け付けることになるでしょう。
③ 受け付けた後は、前記の非開示事由の有無を調査、確認することとなります。相応の調査(医師の診断書、夫から妻に対するSNS等でのメッセージ、生徒本人の供述等の確認)を行った上で、母親から父親に対するDVその他不適切な行為があると思われる場合には、「本人又は第三者の権利利益を害するおそれがあること」を理由に非開示とすることが可能であると考えられます。なお、非開示の決定に対しては、申請者から不服申し立てがなされることも考えられますので、このような場合に備えて、非開示を決定する前にきちんと事実関係を調査しておくことが重要です。
  なお、実務上は、開示請求者である父親から「DVというのは妻の言いがかりだ。」「妻は、離婚時の子どもの親権者を得たい一心で、子どもを連れて勝手に家を出て行ってしまった。まだ離婚もしていないのに、学校は夫婦の一方の味方をするのか。」といった苦情が述べられることも珍しくありません。このような場合の対応は悩ましいですが、法令上は「権利利益を害する場合」ではなく「権利利益を害するおそれがある場合」に非開示とすることができるとなっていること、また、開示した場合に生じる可能性のある不利益の内容(対象生徒やその母親等の生命又は身体の危険)に鑑みれば、非開示とするのが適切でしょう。

学校運営と著作権

Q
9-1
私は、中学校で社会の授業を担当している者です。
(1)私が自宅でDVDに録画したテレビ番組を、私が担当するクラスの授業で視聴したいと考えていますが、法律上の問題はありますか。また、私が授業を担当していない同学年の他のクラスの授業で視聴する場合はどうでしょうか。
(2)私が担当するクラスの授業で、市販されている問題集のうち一部を生徒の人数分コピーして配付しようと思いますが、法律上の問題はありますか。
A

① 著作権による保護の対象となる物を「著作物」といい、本件で問題となっているテレビ番組や市販の問題集も「著作物」に該当すると考えられます。したがって、これらは著作権法による保護の対象となり、無断で複製を作成してクラスの生徒に視聴させたり、クラスの生徒に配付したりすることは、著作権者の権利を違法に侵害する可能性があります。
② 本件について検討するにあたっては、著作権法第35条をおさえておく必要があります。同条は「学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における使用に供することを目的とする場合には、必要と認められる限度において、公表された著作物を複製することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」と定めています。このような著作権法第35条が定める条件を満たす限り、著作権侵害の問題は生じません。
③ 教諭が自らテレビ番組をDVDに録画して、録画された番組を自らの授業において児童、生徒に視聴させることは、「教育を担任する者」が「授業の過程」において使用に供するものであり、また、テレビ番組の著作権者(放送事業者等)の利益を不当に害することになることも通常はないと考えられますので、著作権法上問題はないと考えられます。
④ 一方、問題集のコピーの配付も「教育を担任する者」が、「授業の過程」において使用に供している点は上記の設例と同様ですが、ここでは、著作権者の利益を不当に害することにならないかが問題となります。問題集は、通常、児童、生徒が自ら購入し、学習することを想定して作成・販売されています。仮に、本件のような行為が認められると、該当のクラスにおいて複製の対象となった問題集を購入する生徒は著しく減少することとなるでしょう。このような事態が複数の学校において生じることとなると、問題集の著作権者(出版社)の利益を著しく害することとなる可能性があります。したがって、本件の行為は「著作権者の利益を不当に害する」ものとして許されないでしょう。

Q
9-2
先日、ある企業から本校宛てに、イラスト利用料に関する請求書が届きました。本校で作成・発行した学校だよりに掲載されているイラストについて、この企業が権利を持つイラストを無断で使用されたとして利用料を請求するものでした。学校だよりを作成した職員に事情を確認したところ、「インターネット検索サイトで『学校 秋の行事 イラスト 無料』と検索して表示された複数の画像の中から1つを選んで利用した。利用に当たって特に権利者の確認等は行っていない。」とのことでした。その後、請求書に記載された企業のウェブサイトを見たところ、たしかに該当するイラストを含む複数のイラストが掲載され、利用を希望する場合には利用料が発生することが明記されていました。本件で、本校は利用料を支払わなければならないのでしょうか。
A

① 本件では、学校だよりでのイラストの利用がイラストの著作権を有する企業の著作権を侵害しないかが問題となります。
  はじめに、本件のイラストがどのようなものかにもよりますが、ごくありふれた題材を、ごく一般的な構図で、ごく一般的な描き方で描いているといった事情が無い限り、本件のイラストは「著作物」に該当する可能性が高いと考えられます。本件のイラストが著作物に該当する場合、これを複製するに当たっては権利者の承諾を得る必要があります。
② 自治体の広報誌等に、第三者が著作権を有するイラスト等が権利者に無断で掲載されていたとして、著作権者から自治体に対して使用料相当額を求める事案が多数見られます(インターネット検索サイトに「自治体 イラスト 無断使用」などと入力して検索すれば、多数の事例が出てきます)。そして、事案によっては、使用料相当の損害金として100万円を超える金額を支払わざるを得なくなった事案もあります。
  このような事態を回避するためには、管理職が著作権について正確な知識を持っておくべきことはもちろん、研修等を通じて各教職員が最低限の知識を身に着けられるような配慮が必要です。

近隣住民とのトラブル

Q
10-1
先日、本校のグラウンドの向かい側に住んでいる方から電話があり、「運動会の練習がうるさい。連日の騒音で体調不良となってしまった。すぐに止めさせてほしい。」との苦情がありました。その際、「担当の教員に伝え、ご迷惑とならないように配慮します。」と答え、担当教員にもその旨を伝えたのですが、翌日に再び同じ方から電話があり、「昨日あれほど言ったのに何も変わっていない。運動会自体を行わないでほしい。これ以上騒音が続くようであれば慰謝料を請求する。」とのことでした。今後、どのように対応すればよいでしょうか。
A

① 本件に対応するにあたっては、受忍限度(じゅにんげんど)という考え方をおさえておく必要があります。
  騒音を発生させている施設がある場合に、施設の設置者に対して、騒音の原因行為の差止めや騒音被害による慰謝料を請求して訴訟が提起されることは、珍しいことではありません。このような場合、通常、受忍限度を超える騒音被害があった場合に限り、原因行為の差止めや慰謝料請求が認められることとなります。受忍限度について、例えば京都地方裁判所平成20年9月18日判決は、学校が設置するエアコンの室外機の騒音による被害が問題とされた事案において、次のように述べています。
 「人は、その居住場所において、静謐な環境の下、平穏な生活を営む人格的利益を有しており、この利益は排他的な性質を有するというべきであるから、他の者がその居住場所に到達させた騒音によって上記人格的利益を違法に侵害された場合には、他の者に対し、その侵害行為の差止めを求めることができるというべきである。もっとも、人が社会の中で生活を営む以上、他の者が発する騒音に晒されることは避けられないのであるから、その騒音の侵入が違法というためには、被害の性質、程度、加害行為の公益性の有無、態様、回避可能性等を総合的に判断し、社会生活上、一般に受忍すべき限度を超えているといえることが必要である。」
  裁判例によって若干表現は異なるものの、騒音被害が問題となっている訴訟においては、おおむね上記のような考え方に沿って、騒音発生行為の違法性の有無が判断されています。
② 騒音は、人によって感じ方がかなり異なると言われています。実際、同じ音量であっても聴く人によって騒音と感じる人もいれば感じない人もいます。また、同じ人が同じ音量の音を聴いても、音の性質によって騒音と感じたり感じなかったりすることもあります。
  このように主観的な要素が多分にある問題であるからこそ、まずは、苦情を申し出ている人の気持ちに寄り添った対応が重要となります。具体的には、できる限り速やかに電話の相手の自宅を訪問し、相手が訴える騒音について具体的な話(いつ、どのような種類の音が、どの程度の大きさで発生しているのか等)を聴くと共に、現実に学校活動に伴って相応の音が発生している場合には、その種類や程度を現場で確認することが必要です。なお、訪問の際に「この度は、本校の活動で○○様にご迷惑をお掛けしており、申し訳ありません。」といった言葉を述べたからといって、法的な責任を認めることにはなりません。その場の状況をふまえ、必要に応じて上記のような謝罪を行うことも検討しましょう。
  現場での確認を終えた後、「今日の確認の結果をふまえて、校内で協議させていただきたいと思います。」などと告げて、その場を辞去します。その際、「何とかします。」など、騒音の低減を約束したと誤解されるような言葉は避ける必要があります。
③ 訪問者が行った現状の確認を前提に、学校内において対応を検討します。
  まず、相手が訴えている騒音が訪問者にとって騒音と感じられない程度のものであった場合ですが、そのような場合でも、ひとまず、近隣住民から騒音の訴えがあったことを担当の教員に伝え、思い当たる点が無いか確認しておくべきです。そして、生徒の教育に影響しない範囲で音の発生を減らすような配慮が可能であれば、なるべくそのような対応をとることが望ましいでしょう。具体的には、例えばマイクを使用している場合には音量を下げたり使用頻度を減らしたりすることが考えられます。その後、学校で検討した結果と今後の対応について、相手に伝えます。
  次に、相手が訴えている騒音が訪問者にとっても騒音と感じられる程度のものであった場合には、なるべく速やかに担当の教員に事実を伝えた上で、騒音を減少させる方法の有無、内容について検討すべきです。騒音が生じていない場合と比較して、学校にはより積極的な取り組みが求められます。騒音の程度にもよりますが、生徒の教育に対して何らかの影響が生じる対策を含めて、どのような対応が可能か検討することが大切です。具体的には、マイクの使用を控える、雨天時に限らず体育館内での練習を検討するといった対応が考えられます。
④ 上記のような対応によって納得する方もいますが、納得せずに同じ主張を繰り返す方もいます。
  学校としては、一般的には「運動会を実施しない」という選択肢はとれないでしょう。そうすると、学校としてできる範囲の対応は行ったことを再度説明し、理解を得るように努めるほかないと考えます。一般論としていえば、近隣住民に対して相応の配慮をしているにもかかわらず、運動会の練習の際に生じる音について違法性が認められる場合は少ないと思われます。したがって、学校の対応を説明するだけでは納得されない場合には、あわせて、違法性が無い旨を伝えるという選択肢もあるでしょう。
  このような対応にもかかわらず繰り返し苦情が述べられ、業務に支障が生じているような場合には、弁護士と相談するなどした上で、書面によって説明、回答を行い、以後は「先日の書面でお伝えしたとおりです。」として早々に電話を切り上げることなども検討すべきでしょう。

Q
10-2
先月、本校の正門から徒歩1分ほどの場所にコンビニエンスストアが開店したのですが、そのコンビニエンスストアの店長から本校に対して苦情の電話がありました。店長によると、本校の複数の生徒が、学校まで保護者に車で送ってもらい、コンビニエンスストアの駐車場に車を停め、そこで車を下りているようです。店長は、今後も同じような状況が続くのであれば、営業妨害を理由に学校の設置者に対して損害賠償を請求すると述べています。この苦情に対して、どのように対応すればよいでしょうか。なお、本校では、学校敷地内にスペースが確保できないことや、多数の生徒が集中して登校する朝の時間帯の安全確保の観点から、車での送迎は禁止しています。
A

① 教員の生徒に対する監督義務は、生徒の全生活関係に及ぶものではなく、学校における教育活動及びこれと密接不可分の関係にある生活関係についてのみ及ぶと考えられます。本件では通学中の行為が問題になっていますが、このような行為が学校における教育活動と密接不可分の関係にあるとされる可能性は高くはないでしょう。
  ただ、学校運営上、地域と良好な関係を構築することは重要です。したがって、学校としては、まずは事実関係の把握に努めるべきでしょう。具体的には、店舗を訪れて、具体的な事実関係(生徒を乗せた車が店舗の駐車場を利用している時間帯、利用の頻度、利用者が特定の生徒か否か等)について聴き取ります。その上で、店舗から少し離れた場所から、あるいは店長の了解を得た上で店内から、駐車場の様子を観察する等の方法で事実関係の確認を行います。
② 学校の生徒が駐車場を利用している場合、まずは、生徒及び保護者全員を対象として、注意喚起を行うべきでしょう。具体的には、生徒に対しては、全校集会等の機会に店舗からの苦情の内容を伝えると共に、店舗の顧客で無いにもかかわらず店舗の駐車場を利用することは許されないことを伝え、さらに、車での送迎は禁止されていることを再確認することが考えられます。保護者に対しては、生徒を通じて文書を配布し、生徒に対するのと同様の内容を伝えることが考えられます。さらに、一部の生徒が頻繁に利用しているという事情があれば、該当の生徒及び保護者に対して直接連絡することも必要でしょう。なお、このような問題は、年度が変わり新しい学生が入学すると再燃することが少なくありません。少なくとも年に1回、年度当初に全校生徒及び保護者に対して上記の内容を周知することが大切です。また、学校がとった対応については、店舗の店長に対して知らせておきましょう。
③ 上記のような対応にもかかわらず車での送迎を止めない生徒及び保護者がいる場合ですが、まず、上記のような対応をとっている限り、学校(設置者)が店舗に対して損害賠償責任を負うことは考え難いところです。したがって、仮に店舗から損害賠償の請求があったとしても、学校として可能な対応を行っていることを説明し、理解を得るよう努めるほかないでしょう。また、学校の対応が不十分であるとして、店舗から学校に対して、例えば教職員が毎朝店舗付近に立ち、生徒及び保護者を指導するよう要求されるといった事態も考えられますが、学校がそのような法的義務を負うことはないと考えられます。地域への協力の観点から対応するという選択肢もありますが、その後も継続的に対応できるとは限らないことを考えると、そこまでの対応をとるか否かは慎重に検討した方がよいでしょう。